ゲームを作れなかった人がフリーゲームで賞をもらった話

ティラノゲームフェス2019という、フリーノベルゲームの祭典がある。

2016年から始まり、今回はなんと応募期間8ヶ月間になんと341作品ものゲームが集まった。341、後ほど理由は語るがこれ、私はめちゃめちゃすごい数だと思う。

そんなゲームフェスにはなんと結果発表(豪華賞品つき!)があり、これまたなんと、私、はみどりの『Sleepy Snow Song』(以下「SSS」)が百作位ある佳作の一つを受賞となった。


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受賞バナー。タイトルが入ってるの泣けるよね。

自慢じゃないがはみどりには技術が何もない。これも後述するが、記事タイトル通り、作りたくても『ゲームを作れない』人だった。そこでなんとか完成した初回作が、『Sleepy Snow Song』であり、なんと賞まで頂いた。

そこで調子に乗って、ゲーム製作~フェスの参加の所感を書かせていただこうという記事である。

 

ティラノゲームフェスとは

すごーい人がしてるすごーい事。

一応この時点で概要だけ触れておこう。

まず、シケモクMK様がティラノスクリプトという、ノベルゲーム開発ツールを無料公開してくださっている。正確な時期はわからないが、5年前にはなかった(と思う)。

そして、合わせてノベルゲームコレクションという無料の作品公開用サーバーを設置してくれている。これによって、自HPがなくてもティラノで作られたゲームは作品紹介ページもDLページもブラウザプレイページも簡単にできる。なんとスマホでもプレイ可(自動対応!)

そして、その『ノベルゲームコレクション』内でシケモク様により開催されるノベルゲームコンテストが、ティラノゲームフェスである。応募期間内に公開さえすれば誰でも参加可能・かつプレイヤー側もレビュワーとして巻き込む素敵な仕掛けがたくさん施されている。

この記事はここで読むのをやめてもいいので、ぜひ遊びに行ってほしい。フェス参加の有無にかかわらず、面白いゲームが本当に本当にたくさんある。そして全て無料でDL不要(DLもできる)、クリック一つでプレイもできる。

 

ゲームを作れない自分がティラノスクリプトと出会うまで

当方20代半ばであるが、話は中学生までさかのぼる。

ひょんなことからフリーゲームに出会い、以降女性向けゲームや一般向けADVを中心にプレイしまくっていた。個人サイト最盛期である。

ドラマを見れば女優を目指し、本を読めば小説家になりたいとノートを買ったあの頃の自分が「フリーゲーム作りたい!」となるのは必然。

乙女ゲームが作りたい。ネタはできたぞ、あんなキャラ達とこんなストーリーで……

しかしそこには大きな壁が立ちはだかっていた。

 

① 絵が描けない

私の中の乙女ゲーム像は、商業の影響もありいわゆる立ち絵とメッセージウィンドウの形がノーマルだと思っていた。それにやっぱりイラストがあった方が的確に自分の世界観を伝えられる。

ところがどっこい自慢じゃないがキャラを描く技術はない。絵描きが言う「私下手だから~」とかいうレベルではなく、そもそも土俵に乗れていない。「絵」自体に不慣れなため、こじゃれた枠一つも厳しい(これは今も)。

ここは絵が描ける友人に協力を依頼することで解決、したかに見えたが……

② スクリプトが分からない

まずスクリプトエンジンを選べない。「このお魚アイコンよく見る! 自由度高そう!」と吉里吉里をDLしても何をしたらいいかわからない。自由度が高いとは難易度が高いということである。

タグリファレンス? KAGって何? なんか真っ黒なんですけど???

そこで活躍インターネットの書物庫。ありがたいことに吉里吉里に特化した初心者ゲ制作者向けのHPもいくつも見つかった。インターネットの半分は人の善意でできているね。

しかしここで悪い欲張り癖が発動した。頭の中にある理想のゲームをそのまま作りたいがために、名前変換は譲れないだとか、メッセージウィンドウもこれに変更したいだとか、一つのHPの流れをそのままなぞるだけではいけないと思っていたのだ。

そうなるとただでさえポンコツな自分に情報の検索・整理がしきれるはずもなく、進まない流れに絵を描いてくれるはずだった友人ともお互いなんか思ったより面倒だよね、となり、お流れとなった。中学生同士なんてそんなものである。

 

とはいえフリゲプレイは続けていたし、たまに熱が復活したりした。絵が描けないならまずは絵のないゲームを、とも考えた。

しかし、時代の流れとともにお気に入りに入れた吉里吉里のわかりやすいページもリンク切れになっていたり、前に学んだことを忘れたりしてやはり続かなかった。最初の課題「背景・メッセージウィンドウ・テキスト」が並んでクリックすれば進む、までが限界だったと思う。

そして繰り返すうち、自分の最大の課題に気づくのである。

 

③シナリオ・スクリプトを最後まで書き抜く技術がない

熱しやすくて冷めやすい自分には根性がない。今まで完成した物語は短く、さらにほんの数えられるほどじゃないか。大学生になるころには、冷静にそれを受け止め大人しくプレイヤーであろうとしていた。挫折を繰り返した当時のフリゲ観がこちら(別垢5年前の内容再投稿)

今でも同様に、フリーゲームは完成したその存在自体が奇跡だと思っている。

 

時は流れ社会人になり、猛烈に創作活動がしたくなった。2018年の目標として、『何か一つ創作を完成させる』ことを挙げた。

自分には技術がない、短編で、やる気のために多くの人に公開できる手段で…と考えたとき思い出した。高校の時に考えた、絵が描けなくても作れるシンプルなゲーム案を。

とはいえ吉里吉里2もHPが閉鎖しているし…とぽちぽち検索をしていて、いいものがあるぞと見つけたのがティラノスクリプトである。

 

ティラノスクリプトのすごさ

公式が親切丁寧。これに尽きる。

そもそも基本無料でゲーム制作ツールを公開してくれる技術と環境と心意気がそろった時点で「この世には素晴らしいことがまだまだある」と五体投地したい気持ちなのだけれど、それに輪をかけてティラノはユーザーに手厚いです。

まず「ティラノスクリプトってどんなのかな」と手に取るチュートリアルがゲーム形式。しかもそのスクリプトごとDLできることで、実際の動作と照らし合わせながら見ることができる。型があるものをちょっといじってみてどう変わるか確認もできる。革命だった。

そしてHP上の手引きの丁寧さがすごい。

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ティラノスクリプト HP

見よ、この『使い方』の項目の懇切丁寧さ。文字の表示からタイトル画面、配布の方法まで網羅している。

基本のタグや打ち込み方のわかりやすさをみて、「これならこんな自分にも完成させられるんじゃ」と希望を持てた。

少し上級者向けの内容として変数の扱いまで載っているので、このページだけでゲームが完成しそうである。デバッグツールまでついてくる。

更に公式で取り扱い説明書を出版してくれている。

 

TYRANOSCRIPTではじめるノベルゲーム制作 (I・O BOOKS)

TYRANOSCRIPTではじめるノベルゲーム制作 (I・O BOOKS)

 

 普通に近所の本屋さんに置いてあった。やはり一つの画面で行ったり来たりするとぽんこつな頭ではわからなくなるので、実物があると助かった。

ちなみに自分はスクリプトをかじっていたからティラノスクリプトに手を出したが、『クリック&ドラッグでゲームを作れる!』というキャッチコピーの「ティラノビルダー」ちょっと見たら『こんなのあっていいんですか!?』ってなるくらいすごかった。座標位置もいらない。ゲーム制作の敷居をだるま落とししている。

 

ゲーム制作開始

~完成を目指して・シナリオ編~

さて、ここからは「いかにして技術のない人が完成までこぎつけたか」という話である。

まず決めたことが何点かあり、

・絵を描かなくていい話にする。→課題① 絵が描けない の解決

・選択肢以外のプレイヤー側操作はなし

・エンドはBAD、NORMAL、TRUEのみ

・自分で作るのはタイトルとシナリオだけにする  

SSSのおおまかな方向性は自作絵不要のゲームとして過去に考えていたため、それをそのまま使うことにした。道ばたに積もった二つの雪が話す、人間の会話を聞く(発信なし)、溶けてEND。顔グラも描けないなら顔のない無生物にしてしまえという魂胆。

ちょうど先日、制作についてシケモクMK様がツイートしていたので引用。

これは何度も失敗して実感したことだが、『ゲームの完成』自体難しい。本当に。冒頭で

今回はなんと応募期間8ヶ月間になんと341作品ものゲームが集まった。341、後ほど理由は語るがこれ、私はめちゃめちゃすごい数だと思う。

とした意味はこれだ。この期間を狙った人が多いとはいえ、341作品完成してるだけですごい。しかもSSSのような完成にとにかく重きを置いた技術最低限なものではなく、もっと手の込んだゲームたちが完成している。集まったのはもっとすごい。(語彙力)

シナリオはかなり見切り発車で書き始めた。今ではキャッチコピーのような「さよならの続き」なんてワードもなかったし、中盤でも「さよならの続き、何にしよう」と悩んでいた程。

ちなみに短編にまとめるようと気を付けたのは「主人公と会話するキャラは一人だけ」にすることだった。3人集まると人間関係3倍になるので。だがしかし、

大いに失敗している(約3万字シナリオ・結局もう一人出した)。この文章も本当はツイートにまとめようとしてたよ。

こんな感じで「完成のためにやむかたなし」みたいな作業量の増大があるので企画だけでもシンプルな方がいいと思う。

シナリオしかないからこそ、シナリオは大事に大事に、雪という存在にこだわって書き上げた。自分の物語大好きマンなので、気になるところはあれども何度も読み返すほど気に入っている。

~完成を目指して・作業編~

さて、散々スクリプトの課題の話をしてきたが、まず手を付けたのはシナリオである。

先ほども述べた通り、自分でゼロからなんとかするのは主にシナリオのみ。そして、シナリオとスクリプトを同時並行で進めようとするとスクリプトの試行錯誤でエターナる。

だから、なにはともあれシナリオさえ完成してしまえば意地でもスクリプトは完成させられるだろうと考えた。素材集めもタイトルロゴもうきうきするけど全部後回し。結果的に功を奏したと思う。(タグコピペ地獄にはなったが)

つまり基本画面は背景画像とメッセージウィンドウにテキスト、たまに暗転、以上。選択肢ウィンドウもなし。なんとも地味なキャプチャとなった。(→課題② スクリプトが分からない対策)。技術がないから習得する技術を最低限にしよう!という発想。これだけシンプルにして、プラグインもまるっと使わせてもらっても湧き出てくるエラーと戦ったからな。これ以上複雑なものは無理だったと思う。

ちなみに、背景画像の加工(色・明暗差分)・タイトルロゴの作成は全てWordで行っている。絵が描けないとはそういうレベル。お絵かきソフトも持ってなかったし、導入したところで新しく習得するには時間がかかると判断。ワードアートでタイトル作った人流石に他にいないのでは…

 

ティラノゲームフェスに参加して

フェスへの参加は偶然だった。

2018年の目標であったゲーム完成が12月31日。あの達成感は筆舌に尽くしがたい。

さて公開だ!と意気込んだところで、ようやっとフェスの存在に気づく。なんと一日後に公開するだけで参加できるという偶然に乗っかって、軽い気持ちで申し込んだ。

その後はしばらく音沙汰もなく、まあそんなもんだよなーと思っていた。キャプチャに文字入れたの古臭くなっちゃったな、自分がプレイヤーならこの内容でなかなかクリックしないよな、と反省したりして。

そして気づかぬ間に応募期間が終わり10月、なんと感想が来た。しかも長文、周回必須のエンドを見ている内容で。

知人ではない、一切の推進力がない人からもらえる感想がこんなに嬉しいものだとは。これがフェスの効果か、と思い知った。そしてダイア玉システムについて知り、コメント主にお礼ができることがありがたかった。

その後もぽつぽつ感想を頂いた。中にはものすごい作品数のレビューを書いている方も。総当たりでも何でも、プレイして感想をくれるのは嬉しい。しかも、実利が絡むならば適当な(ラストまでプレイしてないような)コメントもあるかと思いきや全然ない。

不思議なことに、感想をもらったことで自分も感想を伝えたくなった。今まではプレイを終えて一人で満足していたその気持ちを、拙い文章ではあるが感想を残すようになった。他にも同ゲームに感想を残している人がたくさんいるのが見えるのも、ハードルを下げてくれた。何を隠そうこの長ったらしい文章も、「ティラノゲームフェス」その他サービスへの感想文である。

こんな緻密な環境設定、よくできたものだと思う。ほんの気持ちではあるが賞賛と感謝を込めてスポンサー登録もさせていただいた。馬鹿なことに、Boothの購入アカウントをTwitter以外にしてしまいスポンサーバッジやその他特典はなかったのだけれど。残念。

 

そしてなぜか受賞した

結果発表のページを開くとき、完全に部外者の気持ちで開いていた。あのUIからすんごかったゲームはやっぱり受賞してるのかな、あの世界観が大好きだった作品はどうかな、と。

スクロールした佳作の2番目、見慣れたキャプチャ。地下鉄の中で変な顔をしていたことだろう。

繰り返すがSSSには乏しすぎるはみどりのありったけの技術(とお借りした素材)しか使われていない。他の受賞作の中でも恐らく随一の手作り要素のなさ。感心するような機能も仕掛けも、目を引くイラストも派手な世界展開もない。読んで選ぶだけの「ノベルゲーム」。そんな作品が、「ゲーム」の場で、ましてや技術者であるシケモク様に評価していただけるとは思ってもいなかったのだ。

そしてこのティラノゲームフェスの度量の広さを感じ入った。これでもいいんだ、あれだけ多彩な作品達の中で、こんな小さな作品にもちゃんと目を向けてくれる。これはすごいことなんじゃないだろうか。

余談だが、スポンサー賞は発想が天才。あれは良い。推しに贈れなかったことだけが今回フェスの心残りである。

 

さいごに

実はSSS公開後、次回作に向けて絵を練習し始めた。念願の乙女ゲームを作るためだ。まだ手しか描けないので、手しか描かれないゲームになると思う。また、中学のときに思い描いたあのゲームも、メモ書きだけのあの話も、いつか「ゲーム」にしてあげたい。

こんな希望を10年越しに持てたのも、まず一つ『完成させられた』自信がついたからだ。SSSだって、タイトルもないまま7年も頭の中にいてくれた大事な物語である。

形にさせてくれて本当にありがとう、ティラノスクリプト。どこかの誰かに届けてくれてありがとう、ティラノゲームフェス。